相続法改正の施行日と概要
■相続法改正の概要
相続法改正による変更点として、①自筆証書遺言の方式の緩和、②自筆証書遺言の保管制度の新設、③遺留分減殺請求、④配偶者居住権の新設が挙げられます。
■自筆証書遺言の方式の緩和
遺言に法律上の効力が認められるには、民法上定められた方式に従って遺言書を作成する必要があります。その方式の一つに、自筆証書遺言があります。
自筆証書遺言は、その全文と日付を手書きで記載したうえ、署名押印して作成することとされていました(旧民法968条1項)。しかし、相続財産は多岐にわたることもあり、そのすべてを自書するのは作成者にとって負担になることがありました。
改正では、全文を自書して作成するという要件に例外を設け、パソコン等で作成した財産目録を添付することを認めています。ただし、その場合には添付する財産目録に署名押印することが要求されます(改正民法968条2項)。
このような方式緩和は、2019年1月13日以降に作成される自筆証書遺言に適用されます。
■自筆証書遺言の保管制度
従来、公正証書遺言や秘密証書遺言は公証役場で保管されることとされていましたが、自筆証書遺言の保管については特に定められていませんでした。そのため、遺言者やその依頼を受けた人が保管するのが通常でした。
しかし、このような保管方法では、自筆証書遺言が第三者によって隠匿されたり、改ざんされたりするリスクがありました。また、遺言があることを知らずに法定相続を行ってしまう事例がありました。
そこで、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、法務局に申請することによって自筆証書遺言を保管させることができるようになりました。
この制度は、2020年7月10日から施行され、利用可能になります。
■遺留分減殺請求
遺留分とは、被相続人の配偶者や直系尊属に認められた最低限の取り分のことです。
例えば、夫婦と子2人の家庭で父親が亡くなった場合に、父親が遺言を残していなければ、配偶者と子2人が相続人となります(法定相続人)。そして、配偶者が相続財産の2分の1を相続し、子が各自4分の1ずつを相続します(法定相続分)。
しかし、父親が遺言を残し、世話になった友人に財産全てを相続させると記載していた場合、この内容通りに相続が行われ、家族には全く財産が渡らないことになります。これでは、相続することに対する家族の期待が害されてしまいます。
そこで、このケースにおける配偶者と子は、相続分に2分の1を乗じた遺留分を確保するため、相続した友人に対して遺留分減殺請求を行うことができます。この場合、配偶者は相続財産全体の4分の1、子は各人8分の1を請求できます。
従来は、不動産や銀行預金といった相続財産を現物により返還することが原則とされていましたが、改正法では相当額の金銭賠償が原則となり(改正民法1046条1項)、その支払いに期限を背呈することが可能になりました(1047条5項)。
この改正は、2019年7月1日から施行されています。
■配偶者居住権の新設
配偶者居住権とは、建物の所有者が死亡した後も、その配偶者が居住を続ける権利をいいます。これは、その権限が居住することに限定されているという点で、建物を自分のものとして自由に利用・収益・処分できる所有権とは異なります。
この権利は相続法改正により新設され、2020年7月1日以降に発生した相続について適用されます。
建物所有者が死亡した時点でその建物に居住していた配偶者は、最低6か月間、無償で居住を続けることができます(配偶者短期居住権)。
6か月の期間を超えて居住を続けたい場合は、遺贈や遺産分割協議によって配偶者居住権を取得する必要があります。
建物所有権ではなく配偶者居住権を相続することのメリットは、相続した財産の評価額が小さくなるという点にあります。建物を相続した場合、建物のもつ大きな財産的価値によって相続分(相続できる財産割合)が圧迫され、金銭等の必要な財産が取得できないという問題がありました。しかし、配偶者居住権はあくまでも居住に限定された権利に過ぎないため、居住の継続というニーズを満たしつつ、相続分の圧迫を避けることができるということです。
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